極彩色の巨人が街を練り歩く|鉢嶺が見た青森ねぶた祭 

その夜、鉢嶺祐矢は銀座で親交のあるお客様とともに、東北を代表する夏祭りの熱狂の中にいました。

夜の街については人一倍詳しい鉢嶺ですが、青森の夏が生み出す熱気はまったく別物です。巨大なねぶたが街を進み、跳人たちの掛け声が四方から響き、街全体が一つの祭りへと変わっていく光景に、気づけば完全に呑み込まれていました。

初めて訪れる祭りでありながら、絶好の観覧席からその迫力を体感できた背景には、今回も人との縁がありました。

持つべきものは、やはり縁です。

目次

  1. 青森ねぶた祭──東北の夏を本気で燃やす祭り
  2. 特等席をつないだ老舗洋服店との縁
  3. いざ、灯りの行進──浴衣姿で迎える初ねぶた
  4. 海に浮かぶ、もう一つのねぶた
  5. 祭りの熱は夜の街へ
  6. まとめ

青森ねぶた祭──東北の夏を本気で燃やす祭り

青森ねぶた祭は、毎年8月上旬に青森市中心部で開催される、東北を代表する夏祭りの一つです。国の重要無形民俗文化財にも指定されており、武者や神話を題材にした巨大な「ねぶた」が夜の市街地を練り歩く姿は、青森の夏を象徴する光景として広く知られています。

ねぶたの大きさは、高さが最大5メートルを超えるものもあり、重量はおよそ4トン。内部から光を放つ巨大な造形物を人の力で動かし、約3.1kmの運行ルートを進んでいきます。

華やかな灯りの裏側にある、圧倒的な人力。

そして、ねぶたとともに祭りを盛り上げるのが「ラッセラー、ラッセラー」の掛け声で跳ね回る跳人たちです。ねぶたを観る人、跳ねる人、囃子を奏でる人が街の中で混ざり合い、観客と参加者の境界が次第に薄れていきます。

鉢嶺にとって、青森ねぶた祭は今回が初体験でした。

知識はほぼゼロの状態で、「ねぶた」と「ねぷた」の違いも現地へ来てから知ったほどです。銀座で約20年、夜の街については多くの経験を積んできた鉢嶺も、東北の祭りとなれば完全な初心者。

だからこそ、目の前で起きるすべてが新鮮でした。

特等席をつないだ老舗洋服店との縁

青森ねぶた祭をゆっくり楽しむなら、有料観覧席を確保しておきたいところですが、人気の席は毎年激しい争奪戦になります。先行抽選や一般販売でもすぐに埋まってしまい、良い位置から観覧するのは簡単ではありません。

そんな中で、鉢嶺が絶好の席に腰を落ち着けることができた背景には、ある老舗洋服店との縁がありました。

その店が、青森市新町にある「ファッション・イン甲州屋」です。

ねぶたの運行ルート沿いに店を構え、明治28年創業という長い歴史を持つ老舗。現在は4代目が店を守り、普段の洋品販売に加えて、ねぶた祭の時期には跳人衣装の販売やレンタルも手がけています。

浴衣、たすき、しごき、帯、花笠、ハネト鈴まで、祭りへ参加するために必要なものが一通り揃うため、初めて跳人として参加する人にとっても頼れる存在です。

ねぶた祭を長年支えてきた、地域に根差した一軒。

その甲州屋と鉢嶺の間に縁があったことで、今回の観覧席へとつながりました。

人とのつながりが、旅の景色まで変えてくれる瞬間です。

いざ、灯りの行進──浴衣姿で迎える初ねぶた

日が暮れる頃、街の空気はゆっくりと変わり始めます。

この日の鉢嶺は、せっかくの祭りだからと浴衣姿で観覧に臨みました。祭りについてはほぼ初心者でありながら、装いだけを見るとすっかり地元の粋人。まず形から入るところも、いつもの鉢嶺らしいところです。

やがて運行が始まり、巨大なねぶたが目の前に現れます。

写真や映像で見ていたものとは、迫力がまったく違いました。巨大な武者の表情、力強く描かれた筋肉、細部まで作り込まれた色彩が灯りによって浮かび上がり、その巨大な造形物が目の前をゆっくりと通過していきます。

近距離で見るからこそ感じる圧倒的な存在感。

ねぶたが動くたびに周囲の空気まで動き、光と熱がまとめて押し寄せてくるような感覚があります。

さらに、その周囲を跳人たちが取り囲みます。

掛け声とともに鈴の音が鳴り響き、囃子のリズムが街全体を包み込む頃には、観客として静かに見ているだけではいられません。

祭りの意味を細かく理解していなくても、身体が自然と反応してしまう熱量。

鉢嶺も最初こそ観察するように眺めていましたが、しばらくすると掛け声に合わせて身体を揺らし、すっかり祭りの空気に溶け込んでいました。

知らなくても楽しめる。

むしろ、何も知らずに飛び込んだからこそ感じられた純粋な高揚感でした。

海に浮かぶ、もう一つのねぶた

青森ねぶた祭の魅力は、街中を進むねぶただけではありません。

祭りのクライマックスでは、選ばれたねぶたが船に載せられ、青森港を進む「海上運行」が行われます。

陸上では人々の掛け声とともに激しく進んでいたねぶたが、海の上ではまったく違った表情を見せます。

静かな水面に浮かぶ巨大な灯り。

その頭上には花火が打ち上がり、ねぶたの光と花火の色が海面に反射して揺れていました。

陸のねぶたが「熱」だとすれば、海のねぶたは「幻想」。

さきほどまで大きな声を上げていた鉢嶺も、この時間だけは静かにその景色を眺めていました。同じ造形物でありながら、場所が変わるだけでここまで印象が変わることへの驚き。

祭りが見せる、もう一つの表情でした。

祭りの熱は夜の街へ

海上運行まで楽しみ、ねぶたの灯りが少しずつ遠ざかっていきます。

しかし、鉢嶺の夜はそこで終わりません。

祭りの余韻を抱えた鉢嶺が向かったのは、青森市内のキャバクラでした。

銀座で長く夜の世界を見てきた鉢嶺にとって、旅先の夜の街を訪れることも一つの楽しみです。土地が変われば、店の雰囲気も接客の距離感も、そこで交わされる会話も少しずつ違います。

しかもこの日は、街全体がねぶた祭の熱気を残したままでした。

祭りを終えた人々が夜の店へ流れ込み、通常の日とは違う高揚感が漂っています。その空気に鉢嶺も自然と引き込まれ、先ほどまで見ていたねぶたの話を肴に、青森の夜を楽しんでいました。

陸で燃え、海で魅せ、最後は夜の街へ。

鉢嶺らしい旅の締めくくりです。

まとめ

初めて体験した青森ねぶた祭は、鉢嶺にとって想像以上に強烈な一夜となりました。

巨大なねぶたの迫力。
跳人たちが作り出す熱狂。
海上を静かに進む幻想的な灯り。

そして、そのすべてをつないでくれた人との縁。

祭りについてほとんど知らない状態で訪れたからこそ、目の前の光景を先入観なく受け止めることができたのかもしれません。

青森の夏は、ただ派手なだけではありません。

人が動かし、人が跳ね、人との縁によって受け継がれていく祭り。

最後には夜の街まで含めて、その土地の熱を味わった一日となりました。

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