
「昔、“月読命(ツクヨミ)”っていう月の神様がいたんだ。見えない月の気配を読む神様」
入口でそう話す鉢嶺に、隣のホステスが笑う。
「それ、あなたの本のタイトルみたいね」
「そう、『賢者らの月読記』。今夜は、理屈よりも月を感じる方でいこう」
目次
- 向島百花園「月見の会」とは
- お供え式──静けさの中で始まる
- 箏の音と絵行灯──曇り夜に浮かぶ江戸の灯り
- 茶会と新内流し──“雲間の月”を味わう
- 雲の向こうにある月を読む
- こんな人におすすめ
向島百花園「月見の会」とは

江戸の情緒が息づく、秋の夜の恒例行事。
中秋の名月にあわせて数日間だけ開催され、通常17時の閉園が21時まで延長されます。
園内には俳句や浮世絵を描いた約50基の絵行灯が並び、日没とともに幻想的な光が広がります。
篠笛や箏の生演奏、抹茶の茶会、新内流しが夜を彩り、静かで贅沢な時間を楽しめます。
お供え式──静けさの中で始まる
萩のトンネルを抜けた17時。藤棚の前では庭師たちが法被姿で並び、「お供え式」が始まります。
団子や里芋、柿、茄子——秋の恵みをひとつひとつ丁寧に供える手元に、篠笛の音がそっと寄り添います。
その瞬間、庭全体の空気がやさしく変わっていくのを静かに感じます。

箏の音と絵行灯──曇り夜に浮かぶ江戸の灯り
日暮れとともに、行灯が石畳を淡く照らし、雲間の月光と溶け合う幻想のひととき。
四阿からは「栗田社中」の箏の音が流れ、虫の声とともに曇り夜の静けさを包みました。

茶会と新内流し──“雲間の月”を味わう
御成座敷ではお月見茶会が開かれ、抹茶と月をかたどった和菓子でひと息。
翌日には、三味線と唄の「新内流し」が園内をゆるやかに漂います。
たとえ月が雲に隠れても、音と香りが夜を満たしていく
それが、この庭園の魔法です。
雲の向こうにある月を読む
池のほとりで、二人は雲間の月を見上げます。
「完璧じゃない夜のほうが、味がありますね」と微笑みます。
月が再び雲に隠れても、水面はほのかに光を残します。
静けさの中で、夜の美しさがそっと息づいています。

こんな人におすすめ
・東京で“静かな夜デート”を探している大人カップル
・行灯・箏・抹茶など、日本の伝統行事を五感で体験したい人
・曇り空の合間の月に“余白の美”を感じ取れる人
・写真や文章で“美しい瞬間”を切り取りたいクリエイター気質の人